分子構造の調整
自作の構造調整法の考え方を紹介します.
これはプログラミング上の手法であって,分子力学計算などの計算科学的な方法ではありません.
元素と共有結合の数から軌道と結合次数を決定し,結合相手の情報も含めて電荷を決定します.ファンデルワールス接触,結合角,電荷等を考慮して構造を調整します.
これらのパラメータを元に,座標を少しづつ動かして,最終的にそれらしい構造に落とし込みます.
簡便に過ぎる方法と解った上で,趣味の勉強として好き勝手な設定や使い方をしていこうというわけです.
例えば,下のような使い方ができると思います.
- 分子間相互作用に伴う構造変化にあたりをつけて,スクリーニングあるいは計算ソフトウェアの入力構造を作成
- ポイントミューテーション時のアミノ酸側鎖を構造調整
インフォメーション
関連ページ
このページで考えている処理は,データ構造と構造検知の情報を利用します
分子モデリングソフト Builcule のメニューには,OpenBabel による分子力学計算を入れてあります
目次(ページ内リンク)
部分構造の検知
電荷と部分電荷の設定
構造の調整
部分構造の検知
ファンデルワールス相互作用
直接結合していない原子のペアについては,ファンデルワールス相互作用を考慮すべき原子のペアとします.
ここで,1 原子を介して連なっている原子のペアについてですが,経験的に結合角を調整しやすいのでファンデルワールス相互作用を考慮すべき原子のペアとしています.
軌道の設定
4 原子が結合した炭素の軌道は sp3 とみなします.
3 原子が結合した炭素の軌道は sp2 とみなします.
3 原子以上の原子が結合した窒素の軌道は sp3 とみなします.
ただしこのなかで,複数の sp2 炭素が結合しているものは sp2 とみなします(これは,核酸塩基用の処理です).
2 原子が結合した窒素の軌道は sp2 とみなします.
2 原子が結合した酸素の軌道は sp3 とみなします.
1 原子が結合した酸素の軌道は sp2 とみなします.
2 〜 4 原子が結合した硫黄の軌道は,現実とは異なりますが構造の調整における処理を簡単にするために,sp3 とみなします.
4 原子が結合したリンの軌道は,現実とは異なりますが構造の調整における処理を簡単にするために,sp3 とみなします.
以下のように部分構造を細分類します.
構造を調整すべき 2〜6 原子の組み合わせがたくさん発生します
- 共有結合の種類:単結合か二重結合かで距離が異なります
- 結合角を形成する 3 原子:軌道により結合角が異なります
- sp2 軌道の原子とそれに結合した 3 原子:平面構造に調整します
- 二重結合を共有する 5 原子(C=N の場合)または 6 原子(C=C の場合):平面構造(二面角 == 0 度)に調整します
- ペプチド結合:二重結合性を帯びています
電荷と部分電荷の設定
これまでの情報を基にして,電荷の検知をおこないます.
ただし,酸性アミノ酸や塩基性アミノ酸の側鎖の電荷,ペプチド末端のアミノ基やカルボキシル基の電荷は考慮します.
今後どういう方向に進むか不確定なのでコンテンツは残しておきます.
ここで,いくつかの検知アルゴリスムを紹介します.
- 電荷:カルボン酸イオン,アンモニウムイオン,リン酸イオン,グアニジウムイオン,およびイミダゾールイオン.最後 2 個は,Arg と His の側鎖です
- 金属イオン(Na,Cl,Ca,および Mg)
- 部分電荷:O-H,N-H, P=O,C=O など
カルボン酸イオンおよびリン酸イオンの検知
- 結合が 3 個の炭素をリストアップし,その個々の炭素について,以下の処理をおこないます
- 結合数が 1 個の酸素をリストアップし,その個数を n とします
- n が 2 以上なら,電荷を ( n - 1 ) / n とし,結合数が 1 個の酸素に均等に分配します
アンモニウムイオンの検知
結合が 4 個の窒素であって,結合している原子が炭素または水素であれば,窒素に +1 の電荷を与えます.
金属イオンの検知
共有結合を有しない Na,Cl,Ca,および Mg はイオンとみなします.
それぞれの電荷は +1,-1,+2,および +2 とします.
N-H,O-H,および S-H
- O-H の水素に +0.1,酸素に -0.1 の電荷を与えます
- S-H の水素に +0.1,イオウに -0.1 の電荷を与えます
- N-H の水素に +0.1,窒素に -0.1 の電荷を与えます.ただし,例外があります(下記)
*N-H の部分電荷の例外*
窒素に計 4 個の炭素または水素が結合している場合は,アンモニウムイオンとし,窒素に +1 の電荷を与えます.
窒素に 1 個の水素,2 個の sp2 炭素が結合している場合(His の側鎖など)は,窒素に +1 の電荷を与えます.
グアニジウム基と認識した場合は,NH2 の窒素に +1.0 /(NH2 の個数) の の電荷を与えます.
C=O および P=O
ここで =O は,結合数が 1 個の酸素を意味します.
- C=O の炭素に +0.3,酸素に -0.3 の電荷を与えます
- P=O のリンに +0.5,酸素に -0.5 の電荷を与えます
炭素またはリンが複数の =O を有する場合は,炭素またはリンに + の電荷を加算して,トータルの電荷を打ち消します.
核酸塩基
結合数が 2 の窒素であって,結合している原子が炭素かつ炭素の結合数が 3 の場合,窒素に -0.1,炭素に 0.05 の電荷を与えます.
核酸塩基を想定したアルゴリズムです.
構造の調整
設定すべきパラメータ
構造の検知結果に基づいて,構造の調整用パラメータを決定しています.
これらのパラメータを適切に設定すると,それらしい立体構造に変形することができます.設定を謝ると構造が崩壊します.
主なパラメータを列挙します.
- 結合距離調整用の原子の移動距離
- 結合角調整用の原子の移動距離
- 二面角調整用の原子の移動距離
- ファンデルワールス接触時の原子の移動距離
- 静電的相互作用長征用の原子の移動距離
構造の調整
下の処理を 1 サイクルとして,設定回数繰り返します.
構造の調整では,分子間の相互作用は考慮しません.
共有結合距離の調整
共有結合している原子間の距離を,共有結合半径の和に近づく方向に原子を移動します.
ただし,下の二重結合は例外とします.なお,芳香環もこの距離で処理します.
- C=C 結合は 1.33Å
- C=N 結合は 1.27Å
- C=O 結合は 1.20Å
- N=N 結合は 1.25Å
- N=O 結合は 1.20Å
結合角の調整
結合角をが設定値(sp3 は約 109.5°,sp2 は 120°)に近づくよう,底辺を成す原子間の距離を増減します.
sp2 軌道の調整
中心に位置する炭素あるいは窒素の座標を,それと結合している 3 原子の中心の方向に移動します.
二面角の調整
二面角を成す両端の原子を,平面に近づく方向に移動します.
ペプチド結合については,二重結合性(完全な二重結合ではない)を表現するために,弱い調整を加えています.
静電的相互作用の調整
ある一つの分子内で,電荷を有する原子が,電荷を有する他の原子から受けるクーロン力の総和を計算し,その方向に電荷を有する原子を移動します.
この処理を,電荷を有する全ての原子についておこないます.
ファンデルワールス接触
原子のペアの距離がファンデルワールス半径内にあれば,距離を大きくするように原子を移動します.
ただし,共有結合している原子どうし,結合角を成す非共有結合原子どうしには,この処理はおこないません.