リン酸仮説:8.時系列展開による要約
リン酸仮説 1〜7 のまとめとして,考察を発展させつつ時系列展開してみる.糖,アミノ酸,核酸塩基,およびポリリン酸から始めて,翻訳系や糖・有機酸代謝が発生するまでの期間を扱う.
初期は,現代の生物の構成要素である,糖,アミノ酸,核酸塩基,および脂質が,ポリリン酸のリン酸無水結合を利用して重合していった.
ポリリン酸のリン酸無水結合を利用した重合反応は,現代の高エネルギーリン酸化合物を利用した中間代謝につながった.
ポリリン酸の枯渇が TCA サイクルや還元的ペントースリン酸回路の発生を成立させる進化圧となった.
転写や翻訳についてはほとんど触れていない.
核酸塩基については,塩基そのものではなく前駆体のアミノ化合物であった可能性を考えている(塩基ではグリコシド結合が形成しにくい).
この場合,遺伝暗号が現代のものと異なってしまうなど,解決すべき課題が横たわっている.
目次(ページ内リンク)
時系列展開
今後検討すべき課題
時系列展開
画像は,リン酸仮説で,糖,リン酸,アミノ酸,核酸塩基からなる共重合物が分岐していった順序を示す.
解糖系は,複数のコンポーネントが関与するので,少し離して描いた.
文章は,便宜的に時代を分けて,各時代に起こった変化を記す.
第 1 期 ビルディングブロックからコンポーネントへ
脱水縮合により,ビルディングブロックからコンポーネントが形成される.
ビルディングブロックは,糖,ポリリン酸,アミノ酸,核酸塩基(前駆体)である.
糖とリン酸とのポリエステルにペプチドがエステル結合したものをプロトポリマーと称する.
糖とリン酸とのポリエステルに脂肪酸がエステル結合したものをプロトリン脂質と称する.
プロトリン脂質はミセル化してプロトセルを形成するので,疎水的な環境が生まれる.
プロトセル内部では,加リン酸分解や脱水縮合反応が進行し,プロトポリマーが伸長していく
- ポリリン酸が関与する脱水縮合反応でコンポーネントが生成
- プロトリン脂質の形成
- プロトポリマーの形成
- プロトセルの形成
- コンポーネントの伸長
第 2 期 捕獲活性および酵素活性の出現
プロトポリマーのペプチジル基が伸長することにより,捕獲活性が発生する.
この活性は,トランスポーターや酵素に進化する.
もう一つ重要な反応は,リン酸誘導体によるリボースの修飾である.これは,プロトポリマーが伸長する反応である.
- ペプチドによる捕獲活性の出現
- 捕獲活性の,酵素活性やトランスポーター活性への進化
- ペプチド間のプロトン授受反応による酵素活性の出現
第 3 期 プロトポリマーの構造化と反応の多様化
プロトリン脂質,プロトポリマーのさらなる高分子化は,ペプチド部分の特異性向上をもたらす.
これにより反応が複雑化し,現在の生命に繋がるメカニズムを獲得していく.
リボースのリン酸化やペプチジル基が介在するリボースリン酸関連物質の反応は,後の糖・有機酸代謝につながる反応となる.
高エネルギーリン酸化合物としてホスホエノールピルビン酸などのリン酸化合物が利用され始めた.
- プロトリン脂質の化学進化による,プロトセルの多重層リポソーム構造への進化
- プロトポリマーのヌクレオチド部に方向が出現
- リボースの修飾活性の分岐
- ポリリン酸以外の高エネルギーリン酸化合物の利用開始
- 糖・有機酸代謝に繋がる反応への展開
第 4 期 翻訳活性の出現
特異性が向上したペプチド部分により,プロトポリマーが化学進化し,翻訳活性が出現する.
リボースの修飾活性が分岐することにより,中間代謝の基質が出現する.
補酵素としてシュードヌクレオチド(NADH,FADH 等)が利用されるようになった.
- プロトポリマーのヌクレオチド部とペプチド部との結合部位が固定化
- プロトポリマーのヌクレオチドとペプチドへの分岐
- 遺伝コードの成立
- 中間代謝の基質が出現
- 補酵素の利用開始
第 5 期 糖・有機酸代謝の発生
翻訳系の発生により,ペプチド部分の進化が加速される.
このころには,資源・エネルギー問題が大きな淘汰圧となったと考える.
- 翻訳系のリファイン
- プロトセル内の微小環境の分化
- 糖・有機酸代謝系の成立
今後検討すべき課題
最後に,簡単に触れておく.
分子モデリングの手法を使うなら,基質特異性の説明から始めるのがいいのかもしれない.
ビルディングブロックの収束
一般的な話題ではあるが,光学活性,4/5 種の核酸塩基,20 種のアミノ酸に収束した理由にも触れなかった.
他のビルディングブロック
エーテル型リン脂質,テルペン類(特にポルフィリンやステロールには触れられなかった.
核酸塩基と補酵素の分岐
リン酸仮説では,化学進化の初期においては,NADやFADと,核酸塩基とは区別できないと考える.
つまり,ペプチドまたはその前駆体のプロトポリマーの得意性が低かったはず.
そもそも核酸塩基ではなく,アミノ化合物が利用された可能性も考えている.
核酸塩基だけでなく補酵素の発生の説明も課題である.
参考書の検索
- Amazon の「科学・テクノロジー」本カテゴリーでの,「生化学」の検索結果です
- Amazon の「科学・テクノロジー」本カテゴリーでの,「有機化学」の検索結果です