量子化学ソフトウェアの導入 NWChem
量子化学ソフトウェアの導入 first exampleでドキュメントの最初の例を試したのを引き継いで,NWChem で,アンモニア,モノフルオロメタン,および cis-ブタジエンについて分子軌道と双極子や Mulliken 電荷など静電的な性質を計算します.
分子軌道の計算結果を MOLDEN 形式で出力すると,Gabedit で分子軌道を表示できました.
教科書的な分子の計算なら調べれば正解が判るので,ある程度間違いを避けられるはずです.
これも間違いを避けるためですが,量子化学ソフトウェアの導入 PSI4 とは,意図して分子を異にて記述内容を酷似させています.
インフォメーション
ソフトウェア
外部のソフトウェアは,下記バージョンの組み合わせで 分子軌道の表示に成功しました.
目次(ページ内リンク)
アンモニアの計算
分子軌道の計算例:モノフルオロメタンと cis-ブタジエンの軌道を計算し,表示しました
アンモニアの計算
画像は,下記の計算で得たアンモニアの HOMO を Gabedit で表示したものです.
表示法は後述します
NWChem による計算法
入力ファイルの一例を下に示します.座標の部分は Builcule で作成しました.
start molecule
memory total 16 gb #メモリ
geometry
N 0.00451 0.05939 0.27871
H 1.06380 0.11517 -0.13888
H -0.41155 -0.99012 0.12048
H -0.65675 0.81556 -0.26030
end
charge 0 #電荷
basis #spherical
* library 6-31G* #基底関数セット
end
dft
mult 1 #スピン多重度
xc b3lyp #汎関数
end
property
dipole #双極子
esp #静電ポテンシャル
mulliken #MULLIKEN_電荷
#軌道を Molden 形式で出力
moldenfile
molden_norm nwchem
end
#task dft
task dft optimize #引数がない場合は一点エネルギー計算
task dft property
これを input.dat という名前で適当なディレクトリに保存して,
$ nwchem nh3.nw | tee nh3.out
とすれば計算が始まります.
結果は端末に標準出力されるので,パイプと tee を使って端末だけでなくファイルにも保存しています.
計算結果は上で処理したように,nh3.out というファイルに出力されます.
MOLDEN 形式の軌道は,molecule.molden というファイルに出力されます.
計算結果
最適化構造
nh3.out には構造最適化後の座標が記されています.
その値を引用します.
- N-H 結合距離(Å):1.01944
- H-N-H 結合角(°):105.76
静電的な性質
property で指定した静電的な性質を,出力ファイル nh3.out から抜粋します.
Total dipole 1.9121823905 DEBYE(S)
---------------------------------------------
Electrostatic potential/diamagnetic shielding
---------------------------------------------
1 a.u. = 9.07618 esu/cm ( or statvolts )
Point X Y Z Total Potential(a.u.) Diamagnetic shielding(a.u.)
1 N -0.00000 0.00000 0.24072 -18.377909 19.935172
2 H 0.86658 -1.54759 -0.51110 -1.066116 5.350743
3 H -1.77354 0.02331 -0.51110 -1.066116 5.350743
4 H 0.90696 1.52428 -0.51110 -1.066116 5.350743
----------------------------
Mulliken population analysis
----------------------------
Total S,P,D,... shell population
--------------------------------
Atom S P D
--------------------------------------------------------------------------------------
1 N 3.71713 4.14049 0.03004
2 H 0.70411 0.00000 0.00000
3 H 0.70411 0.00000 0.00000
4 H 0.70411 0.00000 0.00000
----- Total gross population on atoms ----
1 N 7.0 7.88766
2 H 1.0 0.70411
3 H 1.0 0.70411
4 H 1.0 0.70411
アンモニアの分子軌道
分子軌道を表示するための,Gabedit の操作法を示します.
$ gabedit &
で起動します.
- まず,分子軌道表示用ウィンドウを開きます.ツールバーにボタンがあります(マウスポインタを置くと,Display Geometry/Orbitals/Density/Vibration と表示されます)
- 分子軌道表示用ウィンドウの左上の "M" とラベルされたボタンまたは描画領域を右クリックするとポップアップメニューが表示されます
- [Orbitals]-[Read geometry and orbital from a Molden file] と進んで,上で作成した molecule.molden を開きます
- まず軌道選択用のダイアログボックスが表示されるので,目的とする軌道を選択します.デフォルトでは Alpha orbitals タブの HOMO が選択されています
- 次いで,分子軌道表示用のダイアログボックスがいくつか現れます(等高線のしきい値など).最初はデフォルト値でいいと思います
分子軌道の表示例
モノフルオロメタン
画像は,モノフルオロメタンの LUMO です.
棒様式で表示しているので,水色の棒がフッ素です.
計算法はアンモニアの場合と同じなので省略します.
SN2 反応では,
求核剤が炭素原子上に見えている青色の軌道を攻撃し,それと反結合性の赤色の軌道が切断する,
だったでしょうか.
攻撃される炭素上の LUMO(青色の軌道)の大きさに比べて.切断される結合(赤色の軌道)は相対的に小さいです,
cis-ブタジエン
画像は,cis-ブタジエンの HOMO とそのひとつ下の軌道です.
計算法はアンモニアの場合と同じなので省略します.
こんなストーリーだったでしょうか.
(1) ブタジエンには,π電子が4個あって2個の分子軌道を作成する
(2) この場合,エネルギー準位の高い方の軌道が HOMO
(3) エネルギー準位の低い軌道が,電子がより非局在化している
計算して軌道を描いたら,図のように教科書で見たような形になりました.