量子化学ソフトウェアの導入 PSI4
量子化学ソフトウェアの導入 first exampleでドキュメントの最初の例を試したのを引き継いで,PSI4 で,水,モノクロロメタン,および trans-ブタジエンについて分子軌道と双極子や Mulliken 電荷など静電的な性質を計算します.
分子軌道の計算結果を MOLDEN 形式で出力すると,Gabedit で分子軌道を表示できました.
教科書的な分子の計算なら調べれば正解が判るので,ある程度間違いを避けられるはずです.
これも間違いを避けるためですが,量子化学ソフトウェアの導入 NWChem とは,意図して分子を異にて記述内容を酷似させています.
インフォメーション
ソフトウェア
外部のソフトウェアは,下記バージョンの組み合わせで 分子軌道の表示に成功しました.
- Builcule:入力構造の作成(自作ソフト)
- PSI4: Open-Source Quantum Chemistry のドキュメントのページです
- Gabedit 2.5.1
目次(ページ内リンク)
水の計算
分子軌道の計算例:モノクロロメタンとtrans-ブタジエンの軌道を計算し,表示しました
水の計算
画像は,下記の計算で得た水の HOMO を Gabedit で表示したものです.
表示法は後述します
PSI4 による計算法
入力ファイルの一例を下に示します.座標の部分は Builcule で作成しました.
set_num_threads(nthread = 12) #スレッド数
set_memory("16GB") #メモリ
set {
basis = 6-31G* #基底関数セット
print 0
}
molecule h2o {
0 1 #電荷とスピン多重度
O 0.00000 0.00000 0.00000
H 0.00000 -0.65818 -0.93081
H -0.93081 0.65818 0.00000
}
scf_e, scf_wfn = optimize('b3lyp', return_wfn = True) #汎関数
oeprop(scf_wfn, 'DIPOLE') #双極子
oeprop(scf_wfn, 'ESP_AT_NUCLEI') #静電ポテンシャル
oeprop(scf_wfn, 'MULLIKEN_CHARGES') #MULLIKEN_電荷
oeprop(scf_wfn, 'LOWDIN_CHARGES') #LOWDIN_電荷
molden(scf_wfn, 'h2o.molden') #軌道を Molden 形式で出力.ファイル名は "h2o.molden" となる
これを input.dat という名前で適当なディレクトリに保存して,
$ psi4
とすれば計算が始まります.
input.dat というのはデフォルトのファイル名で,引数として省略できます.
計算結果は,output.dat というファイルに出力されます.
MOLDEN 形式の軌道は,h2o.molden というファイルに出力されます.
計算結果
最適化構造
output.dat には構造最適化後の座標が記されています.
その値を引用します.
- O-H 結合距離(Å):0.968615
- H-O-H 結合角(°):103.662723
静電的な性質
oeprop で指定した静電的な性質を,出力ファイル output.dat から抜粋します.
Dipole Moment: [D]
X: 0.0000 Y: -0.0000 Z: -2.0952 Total: 2.0952
Electrostatic potentials at the nuclear coordinates:
---------------------------------------------
Center Electrostatic Potential (a.u.)
---------------------------------------------
1 O -22.322095502523
2 H -1.001829313335
3 H -1.001829313335
---------------------------------------------
Mulliken Charges: (a.u.)
Center Symbol Alpha Beta Spin Total
1 O 4.38717 4.38717 0.00000 -0.77433
2 H 0.30642 0.30642 0.00000 0.38717
3 H 0.30642 0.30642 0.00000 0.38717
Total alpha = 5.00000, Total beta = 5.00000, Total charge = -0.00000
Lowdin Charges: (a.u.)
Center Symbol Alpha Beta Spin Total
1 O 4.33672 4.33672 0.00000 -0.67344
2 H 0.33164 0.33164 0.00000 0.33672
3 H 0.33164 0.33164 0.00000 0.33672
Total alpha = 5.00000, Total beta = 5.00000, Total charge = -0.00000
水の分子軌道
分子軌道を表示するための,Gabedit の操作法を示します.
$ gabedit &
で起動します.
- まず,分子軌道表示用ウィンドウを開きます.ツールバーにボタンがあります(マウスポインタを置くと,Display Geometry/Orbitals/Density/Vibration と表示されます)
- 分子軌道表示用ウィンドウの左上の "M" とラベルされたボタンまたは描画領域を右クリックするとポップアップメニューが表示されます
- [Orbitals]-[Read geometry and orbital from a Molden file] と進んで,上で作成した h2o.molden を開きます
- まず軌道選択用のダイアログボックスが表示されるので,目的とする軌道を選択します.デフォルトでは Alpha orbitals タブの HOMO が選択されています
- 次いで,分子軌道表示用のダイアログボックスがいくつか現れます(等高線のしきい値など).最初はデフォルト値でいいと思います
分子軌道の表示例
モノクロロメタン
画像は,モノクロロメタンの LUMO です.
棒様式で表示しているので,緑色の棒が塩素です.
計算法は水の場合と同じなので省略します.
SN2 反応では,
求核剤が炭素原子上に見えている青色の軌道を攻撃し,それと反結合性の赤色の軌道が切断する,
だったでしょうか.
切断される結合(赤色の軌道)の大きさに比べて,攻撃される炭素上の LUMO(青色の軌道)は相対的に小さいです.
trans-ブタジエン
画像は,trans-ブタジエンの HOMO とそのひとつ下の軌道です.
計算法は水の場合と同じなので省略します.
こんなストーリーだったでしょうか.
(1) ブタジエンには,π電子が4個あって2個の分子軌道を作成する
(2) この場合,エネルギー準位の高い方の軌道が HOMO
(3) エネルギー準位の低い軌道が,電子がより非局在化している
計算して軌道を描いたら,図のように教科書で見たような形になりました.