ピルビン酸キナーゼ

ピルビン酸キナーゼの PDB ファイルから酵素基質複合体を単離し,反応モデルの構築を試みた.
この酵素は,解糖系で ATP を生成する反応の一つであり,ホスホエノールピルビン酸 + ADP → ピルビン酸 + ATP の反応を触媒する.
また,ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸は,オギザロ酢酸に変換されてトリカルボン酸回路に入る.

活性中心からはオギザロ酢酸と ATP γ-リン酸基が対向した構造が得られた.
モデルにはマグネシウムも含まれている.マグネシウムは,基質の位置を固定するのに利用されているようだ.
オギザロ酢酸をピルビン酸に変換し,そのカルボキシル基と ATP との間でリン酸を授受するモデルを構築した.

インフォメーション

PDB ファイル

PDB ファイルは,RCSB PDB: Homepage から入手した.
利用した PDB ファイルは,PDB ID 1A5U,3HQO,および 3HQP である.
由来はそれぞれ,ウサギ,Leishmania mexicana(原生生物の一種),同左である.

ソフトウェア

分子モデルの作成は Builcule を使った.
密度汎関数法による計算は PSI4で,分子軌道の表示は Gabedit でおこなった.

目次(ページ内リンク)


活性中心の単離:PDB ファイルから目的とする活性中心を分離する
反応モデルの構築:単離した活性中心を編集して反応モデルを構築してみる

活性中心の単離

1A5U の活性中心

これらのタンパク質を Builcule で開いたところ,ATP は認識できたがオギザロ酢酸は認識できなかった.
そこで,PDB ファイルからモノマーを単離し,モノマーの ATP から 5Å 以内の原子を切り出し,それを編集して反応モデルを構築することにした.

画像は,Builcule で切り出した 1A5U の活性中心である(ATP 近傍 5Å 以内の原子とそれらを含むアミノ酸残基).
棒球様式で表示し,CPK 色に着色している.緑色の球は Mg2+ である.
オギザロ酢酸は,Mg2+ と何らかの分子と共有結合しているように認識されている.
オギザロ酢酸,Mg2+,およびアミノ酸側鎖の距離が近いため,異常アミノ酸として認識されていたようである.

活性中心から ATP および オギザロ酢酸を含む分子以外を削除すれば,基質どうしの反応モデルを作成できる.
この方法で 3 個のモデルを作成した.

基質の重ね合わせ

1A5U,3HPQ から単離した基質の重ね合わせ

オギザロ酢酸の酸素 → γ-リン酸のリン → γ-リン酸の酸素の成す角の角度を測定した(当然,180°に最も近い角である).

1A5U と 3HQP から単離した基質を重ね合わせてみたのが画像である.
青色が 1A5U,赤色が 3HPQ から単離した基質である.


反応モデルの構築

反応モデルの構造

反応モデルの構造

画像 (1) は,反応後のモデルである.
単離した活性中心の,オギザロ酢酸をピルビン酸に変換した(酸素を炭素に変えただけ).

画像 (2) は,反応前のモデルである.
オギザロ酢酸をホスホエノールピルビン酸に,ATP を ADP に変換した.

(1) と (2) のモデルで移動したリン酸の「移動距離」を測定してみたところ,約 1.6Å であった.

分子軌道の計算

ホスホエノールピルビン酸の LUMO

ホスホエノールピルビン酸には,解離しうる水素が 3 個ある.
水素イオンが解離した状態をいくつか作成し,分子軌道を計算してみた.
計算した範囲内では,リン原子の上に LUMO が分布している構造は,2 解離型のみであった.
画像のリン原子上に青色の小さい軌道が見えている.

左側に見えている赤色の大きな軌道はリンに結合したヒドロキシ基(POH)のもの.
右側に見えている赤色の軌道はメチレン基(H2C=)のものである.

リンが求核攻撃を受けやすいとは見えないが,さらに検討する必要があある(実際に反応するので).
Mg2+ とのイオン結合やタンパク質側鎖とのイオン結合/水素結合の効果を検討すべきなのかもしれない.である.


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