電荷のインポートと簡易計算
Detrial には電荷を表示する機能が 2 種類あります.
原子ごとの電荷を記したファイルをインポートして表示する機能と,電荷を簡易計算して表示する機能です.
前者は,計算化学ソフトからの出力を表示することを意図しています.どちらかと言うと,低分子向けの機能です.
この機能は,数値の符号で球の色を,絶対値で半径を設定するだけの単純な機能なので,電荷以外にも利用できそうです.
後者は,大まかな電荷分布を表示することを目的としてタンパク質向けに開発した簡易的な計算法です.
電荷のインポート
原子ごとの電荷を記したファイルをインポートして表示する機能です.
計算化学ソフトの出力ファイルに出力された電荷を表示することを意図しています.
操作法
画像はその一例です.
アスコルビン酸ラジカルアニオンの Mulliken 電荷を,密度汎関数法(b3lyp/6-31+G*)で計算したときの結果を表示しています.
赤色が負電荷を,青色が正電荷を表します.電荷の大きさは半径としています.
- カルテシアン座標などの分子の構造を記したファイルと,その分子の原子ごとの電荷を記したファイルを準備してください
- [ファイル]-[開く(O)] で分子の構造を記したファイルを開いてください.
- [表示(V)]-[電荷をインポート] とすると,ファイル選択ダイアログボックスが開きます,上記の電荷を記したファイルを開いてください
分子の構造を記したファイルの例
これは,アスコルビン酸ラジカルアニオンの構造を XYZ 形式(カルテシアン座標)で表したものです.
3 行め以降は,計算の出力ファイルの構造をコピペしたものです.
18
H -1.445246665287 -1.052795495506 -0.173058906008
C -0.646088074668 -0.313501271200 -0.027803130629
C -1.294376601318 1.073282389933 0.060988537020
C 0.185971254709 -0.648634785865 1.215985631671
C 1.537117523031 -0.905368468871 0.764285409131
O -0.307262479113 -0.640764038577 2.364632961683
O 2.559215396041 -1.208064689608 1.437789599973
C 1.527350589318 -0.747659652023 -0.725399114636
O 2.422174021076 -0.880446338736 -1.536424566105
O 0.249418227758 -0.401169924285 -1.152248114549
O -0.345247004492 2.122076682494 0.245126576648
H -1.971016432466 1.029583143606 0.934015798960
C -2.107368263691 1.454697109000 -1.178785138465
H -1.524369753693 1.272991612017 -2.084252900077
H -2.346572639980 2.526833245066 -1.124105439071
O -3.300970220623 0.673630023316 -1.312133662040
H 0.315754838778 1.821702069738 0.891956954634
H -3.806242035113 0.752317963911 -0.487482889808
原子ごとの電荷を記したファイルの例
上のアスコルビン酸ラジカルアニオンの電荷を記しています.
計算の出力ファイルから拾った数値で,各行に原子上に割り当てられた電荷を記してあります.
行数と順序は,分子の構造を記したファイルにおける原子の数と順序に一致しなくてはなりません.
0.20713
0.05825
0.02549
-0.09836
0.50141
-0.57263
-0.60705
0.3526
-0.5493
-0.32134
-0.65617
0.18252
-0.24343
0.22771
0.17724
-0.61648
0.48789
0.44452
電荷の簡易計算
大まかな電荷分布を表示することを目的としてタンパク質向けに開発した簡易的な計算法です.
(1) 単原子分子イオン
下の原子が単原子分子の状態にある場合,それぞれ電荷を付与します.
- H:+1
- Na:+1
- K:+1
- Mg:+2
- Ca:+2
- Cl:-1
(2) 解離基
下の解離基に対して,電荷を加算します.
- カルボキシル基:炭素に -1 を加算
- アンモニウム基:窒素に +1 を加算
- 水酸化物イオン:酸素に -1 を加算
- リン酸化物イオン:解離している酸素に -1 を加算
- 硫酸化物イオン:解離している酸素に -1 を加算
(3) 遷移金属
酵素の活性中心を想定しているのですが,当然反応前後で電荷が変化します.
したがって,この値は暫定的なものとしておきます.
このサイトのレベルでプログラムを書くなら,明示的に電荷を設定できるようにするのが楽そうです.
- Mn:+2.0 を加算
- Fe:+2.0 を加算
- Co:+1.0 を加算
- Cu:+1.0 を加算
確認テスト
画像はタンパク質を使って動作確認したときのようすです.
正電荷を青色で,負電荷を赤色で着色しています.
大きい青色が 2 個見えていますが,これらはカルシウムイオンです.
その他はタンパク質由来の電荷です(例えばカルボキシル基は炭素を赤色に,アミノ基は窒素を青色に着色しています).
データバンクからダウンロードしたファイルそのままでは Detrial でうまく電荷を表示できない場合があります.
当サイトで開発している分子モデリングソフト Builcule では,一般に以下のように分子を整形します.
- ドライアップ(水分子が邪魔な場合,水分子 == 遊離の酸素原子を削除します)
- クリーンアップ(異常に接近している同元素の原子や,共有結合と認識されるイオン結合を削除します)
- 水素付加(PDB ファイルでは,水素が記述されていない場合が多く,この場合 Detrial では電荷が認識できません)
- BCL 形式で保存して Detrial で開く