密度汎関数法によるピロリン酸の計算
代表的な高エネルギーリン酸化合物 ATP は,リン酸-リン酸無水物である.
ATP のモデル化合物としてピロリン酸を取り上げ,密度汎関数法で構造最適化と分子軌道や電荷を計算した.
P-O-P の結合角は 109.5°より大きい値となった.
リン原子が求核攻撃される場合には,ヒドロキシ基の解離度が反応性に大きく影響しそうな結果となった.
酵素反応あるいは化学進化のモデリングの参考としていく.
当サイトでの作業仮説 リン酸仮説では,ビルディンブロックがコンポーネントを形成し成長するには,リボースとリン酸の反応が重要であると考えている.
ただしそのままでは重合しにくいので,ポリリン酸による「活性化」が関与するとしている.
これは高エネルギーリン酸化合物として現代に引き継がれている,という訳である.
インフォメーション
ソフトウェア
分子モデルの作成は Builcule を使った.
密度汎関数法による計算は PSI4で,分子軌道の表示は Gabedit でおこなった.
目次(ページ内リンク)
試料と方法
P-O-P 結合角
LUMO
HOMO
Löwdin 電荷
試料と方法
入力構造
画像は 2 個のヒドロキシ基が解離した型のピロリン酸の入力構造である.
以下では,「二解離型」としている.
Builcule で作成し,Builcule 上で Openbabel でコンフォメーション探索をした.
OH … O の水素結合が形成されているように見える.
方法
計算条件を下に示す.
- 汎関数:b3lyp
- 基底関数群:非解離型は 6-31G*,その他は 6-31+G*
P-O-P 結合角
XYZ 形式の出力ファイル geom.xyz が作成されるので,Builcule で開いて結合角を測定した.
- 解離型:160.177 °
- 二解離型:121.203 °
- 非解離型:113.742 °
いずれも,約 109.5°より大きい値となった.
P=O 結合の分極によりリン原子が正電荷を帯び,リン原子どうしが反発することによる,と解釈する
さらに,解離型 >> 二解離型 > 非解離型 の順序が発生した,
これは,O- どうしの反発による,と解釈する.
LUMO
解離型
画像は,酸の解離度の異なるピロリン酸の LUMO である.
少なくとも,リン原子が求核攻撃される場合には,ヒドロキシ基の解離度が反応性に大きく影響しそうである.
(1) は,解離型である.
LUMO は,リン原子上に軌道は見えない.酸素原子上にのみ見える.
(2) は,二解離型である.水素が 2 個結合している.
LUMO は,リン原子上に軌道は見えない.酸素原子上にのみ見える.
また,はリン酸残基に挟まれた酸素原子の上にも LUMO が分布している.
(3) は,非解離型である.
リン原子上の攻撃される位置に,小さい赤色の軌道が存在する.
リン原子上に軌道が広がっているモデルは (3) のみであった.
それに覆いかぶさるように青色で示されている軌道が分布している.
素人から見たイメージとしては,ヒドロキシ基が非解離型になって陰イオンが小さくなり,リン原子の軌道が表面に現れてきた,ということであろうか.
なお,P=O と(おそらく)水素結合している OH 上の軌道より,P=O と水素結合していない OH 上の軌道のほうが大きい.
プロトンが遊離するとしたら,P=O と水素結合していない OH から,ということであろうか.
HOMO
画像は,解離度の異なるピロリン酸の HOMO である.
解離度は上と同じで,
(1):解離型
(2):二解離型
(3):非解離型
である.
計算条件も上と同じである(一度の計算で同時に出力される).
リン酸に配位結合している酸素上に HOMO が(すなわち電子が)分布している.
ヒドロキシ基が非解離型になると(酸素に水素が結合すると),HOMO は縮小するようだ.
また,非解離型ではリン酸残基に挟まれた酸素原子の上にも HOMO が分布している.
Löwdin 電荷
生化学の教科書には,隣り合うリンが正電荷を帯びているので,これらの反発が加水分解の ΔG を下げる原因と記される.
電荷の大きさを視覚的に確かめてみた.
画像は,非解離型の計算結果から Löwdin 電荷を抜き出し,自作ソフトウェアで表示させたものである.
球の半径が電荷の大きさに相当する.
確かにリン-リン間で正電荷の反発があるように見える.
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