グリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼ

グリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼの PDB ファイルを試料とし,PDB ファイルから酵素を単離し,活性中心を抽出し,その反応モデルを構築しようとした.
この酵素は,グリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼとリン酸を基質とし,1,3-ビスホスホグリセリン酸を生成する.補酵素である NADH+ は NADH+ に還元される.
この反応は,解糖経路で最初の還元反応であり,解糖経路の次の段階では ATP を生成する.またこの反応の逆反応は,還元的ペントースリン酸回路の一反応でもある.
エネルキー代謝で重要な役割を果たしているということは,生命の起源あるいは化学進化において重要な役割を果たした反応であることを示しているのではないだろうか.

立体構造を見ると,グリセルアルデヒド 3-リン酸のアルデヒド基と NADH+ のピリジン環窒素のパラ位炭素が近傍に位置していることが判る.
もう一つの基質であるリン酸であるが,活性中心に位置している PDB ファイルは見つけられていない.

インフォメーション

PDB ファイル

PDB ファイルは,RCSB PDB: Homepage から入手した.
PDB ID は,1NQA.Bacillus stearothermophilus という通性嫌気性細菌由来とのことである.
グリセルアルデヒド 3-リン酸と NAD+ を含んでいたのでこれを選択した.

ソフトウェア

分子モデルの作成は Builcule,一部の分子モデルの表示には Detrial を使った.
密度汎関数法による計算は PSI4で,分子軌道の表示は Gabedit でおこなった.

目次(ページ内リンク)

単離:PDB ファイルから目的とするタンパク質モノマーを分離する
活性中心の抽出:活性中心部分を目的に応じた形で切り出す
反応モデル:分子軌道を計算し,基質と補酵素の反応機構について考える

単離

グリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼ

1NQA は 4 量体だったので,Builcule でモノマーを単離した.またクリーンアップをおこない,水分子を除去した.
画像は,グリセルアルデヒド 3-リン酸と NAD+ を空間充填様式で,タンパク質を棒球様式で表示したもの.Detrial で作成した.
グリセルアルデヒド 3-リン酸と NAD+ は,CPK 様式に,タンパク質はアミノ酸の性質別に着色している.

活性中心がタンパク質の中心近くに位置しているようだ.
タンパク質の一部(画像上部中央)が,グリセルアルデヒド 3-リン酸 - NAD+ に覆いかぶさっているように見える.


活性中心の抽出

活性中心

Builcule を使い,単離した複合体からグリセルアルデヒド 3-リン酸と NAD+ およびその近傍のアミノ酸残基を抽出した.
グリセルアルデヒド 3-リン酸と NAD+ からの距離が 3Å 以内にある原子を検知し,検知された原子が属するアミノ酸のみ残し,他のアミノ酸は削除した.
結果を画像に示す.
グリセルアルデヒド 3-リン酸と NAD+ は棒球様式で,アミノ酸は針金様式で描画している.

リン酸を取り囲むアミノ酸残基の抽出

リン酸を取り囲むアミノ酸残基

活性中心からその一部を抽出した.
画像は,グリセルアルデヒド 3-リン酸のリン酸残基とその近傍に存在するアミノ酸残基である.
グリセルアルデヒド 3-リン酸は NAD+ のニコチンアミド残基と接触している.
画像は,ニコチンアミド残基からリン酸残基方向を眺めているとご理解いただきたい.
ニコチンアミド残基の反対側では,リン酸は Arg 2 分子,Thr 1 分子と接触していることが判った.
画像には Asp 1 分子も含まれているが,これは Arg と接触しているようだ.

基質と補酵素の抽出

基質-補酵素

Builcule を使い,単離した複合体からグリセルアルデヒド 3-リン酸と NAD+ を抽出した.
抽出後,pH 依存的に水素を付加したのが画像である.
この水素付加は,libopenbabel の機能を利用している.

画像右端にグリセルアルデヒド 3-リン酸が見える.


反応モデル

ニコチンアミドとグリセルアルデヒド 3-リン酸の位置関係

ニコチンアミドとグリセルアルデヒド 3-リン酸の位置関係

画像は,抽出した活性中心の NAD から,ニコチンアミド以外の領域をカットしたもの.

このモデルでは,アルデヒド基がピリジン環の窒素のパラ位近傍に位置している.
アルデヒド基の水素がピリジン環窒素のパラ位に移るのならば,この配置は蓋然性があると考える.
ただ,アルデヒド基の水素は反対方向を向いている.
これについては C-C 結合が回転すれば問題ないので重要でないのかもしれない.

N-メチルニコチンアミドの LUMO

N-メチルニコチンアミドのLUMO

反応機構を理解しようと,N-メチルニコチンアミド+(NAD+ のモデル化合物のつもり)の軌道を計算した.
計算条件を下に記す.

計算ソフトウェア:PSI4
基底関数セット:6-31G**
汎関数:b3lyp
表示ソフトウェア:Gabedit

画像はその LUMO である.手作業で,上のパラグラフのニコチンアミドと位置関係を合わせた.
ニコチンアミドのピリジン環窒素のパラ位にも軌道が広がっている.
ニコチンアミドのピリジン環窒素のパラ位に,アルデヒド基の水素が渡されるとするなら,辻褄が合うようである.

グリセルアルデヒド 3-リン酸の LUMO

グリセルアルデヒド 3-リン酸の LUMO

図は,グリセルアルデヒド 3-リン酸の LUMO である.
LUMO は,アルデヒド炭素の上に広がっている.
計算条件を下に記す.

計算ソフトウェア:PSI4
基底関数セット:6-31G*
汎関数:b3lyp
表示ソフトウェア:Gabedit

ここまでは計算結果で,後は文献を読んで理解を深めねばならない.
文献を読むための作業仮説を考えた.


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