リン酸仮説:3.プロトポリマーの成長
リン酸仮説では,化学進化の過程で生成した重合物のうち,現代の核酸やタンパク質に関連付けられる分子をプロトポリマーと称している.
プロトポリマーを成長させる反応を,リボースを土台としてまとめる.
これらの反応は,現代のペプチド,ヌクレオチド関連化合物の合成や,複製・転写・翻訳反応につながる反応である.
- リボース 1-位の反応:現代の核酸塩基の付加.化学進化の段階では塩基ではなく何らかのアミノ化合物だった可能性がある
- リボース 2-位の反応:現代のペプチドの成長
- リボース 3-位および 5-位の反応:現代のヌクレオチドの成長
これ以降,煩雑さを避けるため,何らかの方法でリボースと塩基が N-グリコシド結合を形成できるようになったとする.
すなわち,アミノ化合物は塩基に置き換わったとする.
目次(ページ内リンク)
プロトポリマーの修飾反応
重要な反応
プロトポリマーの修飾反応
プロトポリマーを成長させる反応は,下記 7 パタンを考察すればよい(画像の矢印で示した結合).
プロトリン脂質では (3)〜(5) を考慮する必要がない.
(1) プロトポリマーの糖残基にリン酸を結合
(2) プロトポリマーのリン酸残基に糖を結合
(3) プロトポリマーの糖残基に核酸塩基を結合
(4) プロトポリマーの糖残基にアミノ酸を結合
(5) プロトポリマーのアミノ酸残基にアミノ酸を結合
(6) プロトポリマーの糖残基に脂肪酸を結合
(7) リン酸による活性化
(1)~(3) は,プロトポリマーのヌクレオチド様部分を伸長する反応である(疑ヌクレオチドの生成にも使える).
(4),(5) はプロトポリマーのペプチド部分を伸長する反応である.
(6) はプロトポリマーに疎水性を付与する反応である.これにより,プロトセルとの親和性が上昇する(プロトリン脂質生成にも使える).
(7) ここでは,プロトポリマー自身に結合するように描いたが,リン酸による官能基の活性化の意である.
反応機構を記すと,
- (1),(2) の反応は,リン酸無水物のアルコリシス
- (4)〜(6) の反応は,リン酸無水物によるカルボキシル基の「活性化」を経由する反応
- (3) の反応はは,リン酸無水物によるヘミアセタール基の「活性化」経由する反応
- (7) の反応は,リン酸無水物どうしの交換反応
重要な反応
上記「プロトポリマーの修飾反応」を,化学進化の過程をモデル化する目的で再編した.
後述する反応を組み合わせると,画像のようになる.現代の生化学反応とは異なる部位がある.
新たに追加した視点は,リボースの修飾である.
加リン酸分解(ポリリン酸化)
求核剤はリン酸のヒドロキシ基の O,求電子剤はポリリン酸の P である.
加リン酸分解とリボースの酵素反応との結びつきは,まず 1'-OH および 5'-OH の活性化で出現したと想定する.
リボースのヒドロキシ基の反応性は一級と二級との差から,5'-OH > 2'/3'-OH となる.
リボース 1'-OH 上の反応
ヘミアセタールの反応性については知らないのであるが,作業仮説としてこう考えておく.
6.ヌクレオチドの起源では,もう少しだけ考えを進めている.
- アルデヒド型リボースのアルデヒド基がポリリン酸で活性化
- アルデヒド基のカルボニル炭素が求子剤,アミノ化合物が求核剤となり N-グルコシド結合を形成
- アミノ化合物が核酸塩基に化学進化
リボース 5'-OH 上の反応
- 求核剤をリボースの 5'-O,求電子剤をポリリン酸の P とし,一級ヒドロキシ基にポリリン酸を結合して活性化
- 種々雑多な分子を求核剤とし,求電子剤をリボースの 5'-O に結合したポリリン酸の P とし,リボースの 5'-位を修飾
「種々雑多な分子」の現代の(現代に引き継がれている)例を挙げてみた.
- 3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸(PAPS)の生成
- 高エネルギーリン酸結合の生成:糖・有機酸代謝の発生時にはほぼ確立していると考える
- ヌクレオチドの活性化:これが無いと,プロトポリマーのヌクレオチド部が伸長しない
- NAD(P)H+,FAD(P)H2 の生成:5'-OH がリン酸化された分子どうしの反応
- キャップ構造:真核生物限定であるが,とりあえず記す
- アミノ酸の活性化:これが無いと,プロトポリマーのペプチド部が伸長しない
- 脂肪酸の活性化:プロトリン脂質の生成に寄与するとして考慮する.現代では,脂肪酸は CoA に結合する
- CDP-グルコース
- CoA の生成
- CDP-コリン
ヌクレオチド伸長反応およびペプチド伸長反応への利用
このようにして生成したモノヌクレオチド関連物質のうち,5'-OH に
- ポリリン酸のみが結合したモノヌクレオチドは,ヌクレオチド伸長反応の基質
- ポリリン酸が結合しその末端がアミノアシル基が化されているものは,ペプチド伸長反応の基質
として利用されることになる.
残っている反応部位は,2'-OH/3'-OH あるいはそれに結合したアミノアシル基である.
リボース 2'/3'-OH 上の反応
求核剤はリボースの 2'/3'-Oとする.
求電子剤は上で挙げた 5'-OH が修飾されたリボースの 5'-O またはそれに結合したポリリン酸の P とする反応である.
求電子剤が活性化されたヌクレオチドなら,プロトポリマーのヌクレオチド部が伸長する.
この反応を転写・複製系の起源とすることができそうだ.
求電子剤が活性化されたアミノ酸なら,プロトポリマーのペプチド部を伸長させる反応の第一段階(アミノアシル化)である.
求電子剤がポリリン酸の場合は,2'/3'-OH がリン酸化される.
アミノリシス
求核剤はアミノアシル化ヌクレオチドのアミノ基の N,求電子剤はペプチジルヌクレオチドのペプチド結合の C である.
これはペプチド鎖を伸長させる反応である.
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