ペプチドの in silico コンフォメーション実験

ペプチドがどのようなコンフォメーションを取るか in silico 実験した.
ペプチドは乱数を使って生成し,libopenbabel を使ってコンフォメーション解析をおこなった.
コンフォメーション解析後のペプチドについて,分子の中心からの平均距離と分散,および X,Y,Z 座標に関する分散共分散行列の固有値を計算した.
コンフォメーションに電荷が大きく影響しているであろうことが確認できた.

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実験
結果

実験

ペプチドの生成

ペプチドは自作ソフトウェア BCMD シリーズBPeptGen で作成した.
鎖長は 10 で,ペプチド数は 20 である.アミノ酸は乱数を発生させて決定した.

コンフォメーション探索

OpenBabel のライブラリ版 libopenbabel を利用した簡単なソフトウェアを使っておこなった.
もちろんこの計算は,実行ファイル版 OpenBabel でも可能である.

ペプチド情報の取得

ペプチドの情報は,libbuilcule を利用したソフトウェアを作成して計算した.
項目は,電荷,分子の中心からの平均距離と分散,および X,Y,Z 座標に関する分散共分散行列の固有値である.

正電荷は,Lys,Arg,His の残基数,および N-末分 1 個である.
負電荷は,Asp,Glu の残基数,および C-末分 1 個である.
アミノ酸をランダムに発生すると,統計的に正電荷が多くなる.

ここでの固有値の意味は,分子を全体として楕円体と見たときの 3 軸の長さである.

結果

名前配列正電荷負電荷距離の平均距離の分散固有値0固有値1固有値2固有値2 / 固有値0
00.pdhWCYQPPLPAA1-17.338619.439395.606529.5552748.53598.6570
01.pdhTSLSMKMTTF2-17.785628.654886.240887.4003256.05728.9823
02.pdhYDMRNIIEFF2-36.323766.48176.466096.9817233.27645.1463
03.pdhMDVDTLHVRH4-36.728935.090995.5997713.544331.52355.6294
04.pdhWMRIVFIIPT2-18.6577214.3716.799212.833670.166910.3199
05.pdhNNMCGRAGVF2-16.599934.787374.7721111.509932.40266.7900
06.pdhCKIWMSYTPQ2-16.905927.124616.8780211.681836.57345.3174
07.pdhSMSLLPQLYV1-17.5570510.02288.083388.6101650.84026.2895
08.pdhVDLISHCTNY2-29.2151312.81156.0224812.187580.138713.3066
09.pdhAPYIDLDDVI1-48.3193712.92523.376287.8479771.43621.1582
10.pdhIPVEQYSHKI3-27.960410.35164.031829.5237360.585315.0268
11.pdhFGLGFGNHQS2-17.099947.108043.5530912.651441.714811.7404
12.pdhVQITQDVIFR2-28.7078711.95575.258328.6064974.413914.1516
13.pdhRNYFRPEDNE3-48.445536.008838.3862127.923341.46564.9445
14.pdhLIAMPFISDA1-27.324827.095114.8930612.750543.4998.8899
15.pdhDYHDINFFMK3-36.60875.372345.8292414.890928.60264.9067
16.pdhNGNMCWRTAG2-17.7597811.56247.21147.4293357.63087.9916
17.pdhYCFYEKENFH3-37.548387.389516.3225310.93747.46577.5074
18.pdhEHVCKGPFLS3-28.675815.09294.75636.6687479.516616.7182
19.pdhPPPTRQRLLH4-17.370717.476553.3544220.510238.282711.4126

固有値とコンフォメーションについて

09.pdh と 15.pdh の構造

細長い分子では,固有値2 / 固有値0 が大きくなる.逆に丸い分子では 1 に近くなる.
今回の実験で最大となったのは,09.pdh であった.分子の正電荷は 1 個で,負電荷は 4 個である.
逆に,固有値2 / 固有値0 が最小となった 15.pdh の正電荷は 3,負電荷は -3 である.

画像下側の分子は,09.pdh の,上側は 15.pdh の棒球モデルである.
09.pdh は負電荷の反発力で分子が伸びているようだ.
一方,15.pdh は正電荷と負電荷の引力で分子が折りたたまれているようだ.
ただし,15pdh は,すべての正電荷と負電荷がペアを形成しているわけではないようである.

これらの結果は,電荷の相互作用がコンフォメーションに影響していることと矛盾しない.
分子の概形は,ここで計算している固有値で表現できそうである.
シミュレーション実験で,コンフォメーションに電荷が大きく影響しているであろうことが確認できた.
今後,さらに研究を進めたい.


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