リン酸による活性化

生物はリン酸-リン酸無水物だけでなく,種々の高エネルギーリン酸化合物を利用している.
リン酸-カルボン酸無水物(アミノ酸の活性化)とリン酸-エノール無水物(ホスホエノールピルビン酸)などである.

第一部では,リン酸-酢酸無水物とリン酸-エノール無水物について分子軌道を計算し,ピロリン酸の分子軌道と比較する.
ピロリン酸の分子軌道は,計算済みである.

第二部では,アミノアシル t-RNA の生合成には,リン酸無水物に対する求核反応が 2 個含まれることを指摘する.
アミノ酸の活性化と tRNA のアミノアシル化である.

インフォメーション

ソフトウェア

分子モデルの作成は Builcule を使った.
密度汎関数法による計算は PSI4で,分子軌道の表示は Gabedit でおこなった.

目次(ページ内リンク)


第一部 モデル化合物
第二部 アミノアシル t-RNA の生合成

第一部 モデル化合物

現代のエネルギー代謝の中心には,高エネルギーリン酸化合物 ATP が存在する.
ATP は,タンパク質や核酸といった高分子の生合成に関わる結合エネルギーを供給している.
ピロリン酸は ATP のモデル化合物である.
高エネルギーリン酸結合は,リン酸-リン酸無水物に限らない.例えば,リン酸-カルボン酸無水物やリン酸-エノール無水物である.

当サイトでの作業仮説リン酸仮説では,タンパク質や核酸の祖先となった物質をプロトポリマーと称している.
化学進化初期,プロトポリマーの生成にはポリリン酸が利用されたとする.
後に基質特異性が進化して分散すれば,種々のリン酸無水物高エネルギーリン酸化合物として利用されるようになるであろう.
エネルギー代謝やタンパク質の生合成における中心的な反応を,その名残と仮定する.

試料

構造式

画像は,このページで計算するモデル化合物である.
(1):ピロリン酸.
(2):リン酸-酢酸酸無水物.
(3):ホスホエノールピルビン酸.

求核攻撃を受けると想定する原子を赤色のドットで示した.

方法

計算条件を下に示す.

結果

ピロリン酸(リン酸-リン酸無水物)

非解離型リン酸-リン酸無水物の LUMO

[ピロリン酸の分子軌道] で計算した結果を流用した.

画像は,非解離型の LUMO である.
リン上に青色で示されている軌道が分布している.
画像からは判りにくいが,分布の領域は,配位結合している酸素の反対側である.
また,隣り合う酸素上の軌道とは反結合性である.

リン酸-酢酸無水物(リン酸-カルボン酸無水物)

非解離型リン酸-カルボン酸無水物の LUMO

画像は,非解離型の LUMO である.
カルボニル炭素上の LUMO が大きいので,ここが攻撃されそうである.
軌道の形は似ているとは言えないが,攻撃を受けると計算される元素は想定通りであった.

ホスホエノールピルビン酸

非解離型ホスホエノールピルビン酸の LUMO

画像は,非解離型ホスホエノールピルビン酸の LUMO である.
リン酸に結合した炭素とカルボキシル基の炭素上に LUMO が広がっている.
リン酸に結合した炭素の LUMO より,カルボキシル基の炭素の LUMO の方がやや大きいようである.
解釈は検討課題としておく.

なお,軌道の形は何やら C=C 上の HOMO のように見える画像である・
が,C-C 上の LUMO である.
私が勘違いしたことを今後のために記しておく.


第二部 アミノアシル t-RNA の生合成

アミノアシルt-RNA の生成反応

アミノアシル t-RNA の生合成には,リン酸無水物に対する求核反応が 2 個含まれる.
構造式を図示した.
それぞれ,

  1. アミノ酸の活性化:リン酸リン酸無水物に対するカルボキシル基の酸素の攻撃
  2. tRNA のアミノアシル化:リン酸カルボン酸無水物に対するリボース 3'O の攻撃

である.
このサイトでは,化学進化においてリン酸無水物が重要な役割を果たしたと仮定し,タンパク質の生合成にその痕跡が残っていると解釈している.


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