マグネシウムイオンとペプチドとの相互作用モデル

Mg2+ の生理機能のひとつに,酵素の補因子機能がある.
例えば,解糖系の酵素のいくつかは活性の発言に Mg2+ が必要である.
Mg2+ の機能を探る手始めとして,ペプチドを乱数を使って発生させ,それらが Mg2+ と複合体を形成するか in silico 実験した.
実験の結果,Mg2+ が 2 個のカルボキシル基とイオン結合するモデルが構築できた.
安定な構造を得るためには,何らかのパラメータを作成してそれが極値になったらシミュレーションを停止する,といった処理が必要なようである.

今後,より複雑なモデルを構築するためには,多くの課題を解決せねばならない.
例えば,ペプチド鎖が長くなると,初期のコンフメーションや Mg2+ の初期座標をどうするのか,といった課題である.

インフォメーション

ソフトウェア

ペプチドは BPeptGen で作成した.ファイルの統合には BMerge を使った.相互作用シミュレーションは,BInter を使用した.

目次(ページ内リンク)


実験 1
実験 2

実験 1

ペプチドとCa2+との複合体モデル1

Mg2+ との相互作用ならカルボキシル基であろう,ということで側鎖にカルボキシル基を有する Asp を利用した.
今回の入力ペプチドを示す.
Asp-Asp-Gly-Gly-Asp
N-末の Asp でアミノ基とカルボキシル基を相殺し,Asp2 と Asp5 で Mg2+ を補足するという想定である.

試料と方法

ペプチドは BPeptGen で作成した.
Mg2+ は XYZ 形式をテキストエディタで作成した.
ペプチドとMg2+ は,BMerge で統合し,相互作用シミュレーションの入力ファイルとした.
相互作用は,BInter でシミュレートした.その際,凝集作用を使わないオプションを使用した.

結果

BInter でシミュレーションをおこなうたびに,構造が変化した.想定が役立たなかった.
得られた構造の二例を画像に示す.
アミノ酸の構造を示すために,棒球様式としている.
空間充填様式で表示すると,カルボキシル基と Ca2+ が接触していることが示せる.

上側の複合体は,Mg2+ を Asp5 で補足している.
下側の複合体は,Asp2 と Asp5 で補足している.

考察

構造が一定しないことは,現実と類似した結果なのか,ソフトウェアの特性なのかは執筆時点では不明である.
安定な構造を得るためには,何らかのパラメータを作成してそれが極値になったらシミュレーションを停止する,といった処理が必要なようである.


実験 2

ペプチドとCa2+との複合体モデル1

実験 1 の想定が甘々だったので,乱数でアミノ酸配列を生成し,複合体を形成するか調べた.
画像は実験で得られた,ENFYN と Mg2+ の複合体モデル.

試料と方法

ペプチドは BPeptGen で作成した.
鎖長は実験 1 と同じ 5 残基とした.他の条件も実験 1 と同じである.

結果

10 ペプチドのうち,5 ペプチドが複合体を形成しなかった.すなわち,ペプチドと Mg2+ との距離が明らかに離れていた.
それらの配列を列挙する.
QNLFL
RYTDH
YRWLK
SRNFM
AVITP
酸性アミノ酸がほとんど含まれていない.
唯一 RYTDH には含まれているが,隣接する His と電荷を相殺したと解釈しておく.

10 ペプチドのうち,3 ペプチドが 2 個のカルボキシル基とイオン結合しているように見えた.
すなわち,
SSLDT:D と T のカルボキシル基
CVEEV:E4 と V のカルボキシル基
ENFYN:E と N5 のカルボキシル基

10 ペプチドのうち,2 ペプチドは,1 個のカルボキシル基とイオン結合しているように見えた.


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